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元兵庫県知事のパワハラで大注目、「公益通報制度」の重大な欠陥
10/16(水) 6:30配信
もし、あなたが勤め先の役所や企業での悪事を目撃したら、思い切って告発に踏み切ることができるでしょうか。元兵庫県知事のパワハラ疑惑をきっかけに注目を集めている、通報者を守るためのルール「公益通報者保護制度」は、いざというときに本当に告発者を守り抜いてくれるものなのでしょうか。国の有識者会議が取りまとめた報告書を読み解くと案制度の「重大な欠陥」が見えてきました。
痛ましい出来事につながった元兵庫県知事のパワハラ通報
元兵庫県知事のパワハラ疑惑をめぐっては、外部に情報を提供した県幹部が自ら命を断つという痛ましい出来事が起こってしまいました。
一連の騒動が注目を集めたことで今後、全国の企業や役所で悪事を目撃した人が、告発をためらうような雰囲気が広がるのでは、という心配もあります。
たしかに、通報者を守るためのルールである公益通報者保護制度は、現時点では決して「完ぺき」とは言い難いようです。ただ、今のルールがどのような仕組みになっているのか、その欠陥を含めてしっかり理解することで、いざというときに自分自身や大切な人の身を守るための役に立つかもしれません。
そもそも「公益通報者保護制度」とは
まず、そもそも公益通報者保護制度とは何なのか、ここで簡単に確認しておきましょう。
「公益通報者」とは公益、つまり自分や誰か特定の人物、仲間内だけでなく、社会全体の利益のために通報する労働者などを指します。
たとえば、従業員が勤務先の不正を発見し、社内に設けられた窓口に通報した場合を考えてみましょう。会社側が「通報により社内の風紀を乱した」などと理由をつけ、通報者に解雇や降格、減給といったペナルティーを科すというような、理不尽な対応を取ることは禁じられています。
とはいっても、「公益目的だ」と主張すれば、どんな場合でも通報者の権利が守られるわけではないことに注意が必要です。また、通報先や伝え方によっては、保護の対象外になることがあります。
では、どのような条件が「公益通報」と認められるのでしょうか。
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「公益通報」と認められる4つの条件とは
公益通報者保護法では、「どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのか」を、明確なルールとして定めています。
まず、「公益通報」として認められるには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
(1)「通報する人」(通報の主体)となるのは、労働者や退職者、役員などです。「労働者」には派遣労働者やアルバイトなども含まれ、「退職者」は退職や派遣労働終了から1年以内を指します。なお「通報する人」には取引先の人々も含まれます。
(2)「通報する内容」も限定されています。労働者らの勤務先や派遣先となる事業者(役務提供先)で、別途定められている各法律(2022年6月1日時点で493本)に違反して、犯罪や過料対象となる、またはつながる行為が生じた・生じようとしているといったものが「通報する内容」となります。公益通報者保護法では、「どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのか」を、明確なルールとして定めています。
(3)「通報の目的」は、不正なものでないことが条件です。不正な利益を得たり、他人に損害を加えたりすることを目的とした通報は、「公益通報」にはなりません。
(4)通報先は、「事業者内部」、「権限を有する行政機関」、「その他の事業者外部」の3つに限られます。なお、通報先ごとに、保護を受けるための要件が異なることにも注意が必要です。
これらの要件を満たしていると認められて、初めて公益通報者保護法の保護対象となります。公益通報をしたことを理由にする解雇は無効となり、解雇以外にも降格や減給などが禁じられます。また当然、事業者は損害賠償請求も行えません。
また、公益通報者保護法では、通報者を守るため、事業者に対する義務も規定しています。
事業者側に求められる取り組みの基本となるのが、窓口での通報受付や調査・是正措置を行う「従事者」の指定です。従事者は通報者氏名などを知ることができる立場ですが、それらを漏らしてはいけない守秘義務を課されることになります。通報に対応する体制の整備義務もあります。ただ、どちらについても従業員数300人以下の事業者は努力義務となっています。
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制度の「重大な欠陥」とは
公益通報者保護制度がどのようなルールでできているかを見てきましたが、本当にこれで、いざというときに通報者の身を守り切ることができるでしょうか?
消費者庁が設置した有識者会合が9月に公表した報告書案は、現在の制度が完ぺきとは程遠いしろものであることを厳しく指摘しています。
まず、現在の公益通報者制度では、誰が外部に情報を伝えたのか、社内で「犯人探し」のような行為をすることが明確に禁止されているわけではありません。誰が通報したかを特定するための調査は、通報者にとって脅威になるだけでなく、ほかの労働者も萎縮させかねません。
報告書案では、通報者探索の禁止を法律上明記して、さらには行政措置や刑事罰も設けるべきだと指摘しています。現状では「体制整備義務」の一部として、指針にはなっていますが、法律の条文として盛り込むことで、さらなる抑止が期待できます。
有識者会合では、通報者が公的通報を理由に不利益を受けた場合に、現状では事業者や個人に罰則がないものの、「刑事罰が必要」という意見も上がりました。加えて、現状では不利益な扱いを受けた通報者が、自分自身で証拠を用意する必要があることから、立証責任を事業者に移すべきだとの声もありました。また、たとえば、内部通報窓口の存在が知られていない、ハラスメント窓口と混同されているなど、社内での周知不足があるといった点を問題視する向きもあります。
一方で、「公益通報」に該当しない通報によって、従事者の負担が増えている現状にも触れています。海外では、通報者がわざとウソの通報をした際の罰則が定められているケースもあります。検討会ではこの点について、制度の健全性を保つメリットと、公益通報しようとする人を萎縮させるデメリットとのバランスを見極めつつ検討すべきとの声が上がりました。
元兵庫県知事のパワハラ疑惑をめぐっては、県職員が公益通報したところ、県は公益通報としては扱わず、通報者を特定した上で、懲戒処分としました。県議会の百条委員会では、有識者から「公益通報者保護法違反では」との指摘が出ています。
もし公益通報者保護制度が「通報者が守られない」という認識が広がれば、積極的な公益通報をためらう風潮につながりかねません。検討会での議論を踏まえ、国がルール改善にどこまで踏み切れるかも注目したいところです。
執筆:小達 紀治、編集:ジャーナリスト 川辺 和将
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